プロジェクトについて

生物地球化学タグによる回遊履歴復元

研究の概要

私たちにとって身近な生き物である海洋生物ですが、その回遊生態や環境との関連性については解明されていないことが数多くあります。
本研究では、生物組織の元素同位体組成の分析などの「地球化学分析」を用い、海洋生物が「いつ、どこにいて、どのような状態で、何を食べていたのか」といった全生活史を通した回遊履歴推定手法である「生物地球化学タグ」を確立します。
これまで海洋生物には応用されてこなかった技術を導入し、異分野展開により新たな研究領域を創り出すと共に、
数値モデリング技術を駆使し、海洋生物の経験環境と地球化学的手法で得られる情報の時空間的スケールのギャップを補完します。

研究項目A01:先進的履歴推定法による回遊生体の新たな描像 (水産生態班)

「海洋生物は子孫を多く残すために最適な経路を回遊する」という基本概念を出発点として、本領域で開発する手法を駆使することで初めて解明できるようになる生態の謎を考案し、その謎の解明に最適な試料を確保することで、未知なる回遊メカニズムを解明します。

研究項目A02:地球化学的手法の先進的応用による新たな回遊・代謝・食性履歴指標の開発(先進応用班)

耳石以外のさまざまな部位を使った新しい指標の開発や,これまで使われたことが無い元素同位体を応用した新しい指標を開発します。

主な研究内容

  • 部位別分析(眼球、脊椎骨、臓器別、血液、生殖巣)による回遊履歴推定
  • 放射性炭素を用いた回遊指標の開発
  • 酸素・水素・硫黄同位体比による回遊 食性指標の確立
  • 炭酸塩と有機物の両者の炭素同位体比分析による代謝指標の確立
  • 統一時間軸の決定と成長速度推定

研究項目A03:多元素同位体の複合解析による回遊生物の新たな生物地球化学タグの確立(高度分析班)

回遊経路の時空間分布(推定経路とその時間軸)を提示し、海洋生物の回遊履歴解析を高精度化 高解像度化することで、「いつ」「どこに」滞在し「どれだけ成長したか」の履歴を明らかにします。

主な研究内容

  • 魚類耳石の超高解像度酸素安定同位体比分析による時系列経験水温および回遊経路の基盤情報の提示
  • 耳石中の炭素安定同位体比を活用した生態食性指標の開発
  • 生態組織中の重元素同位体を活用した海域推定の高精度化によって、「複合生物地球化学タグ」の開発を遂行

研究項目A04:地球化学的生態指標とモデル解析を融合した高時間 高空間解像度回遊履歴復元 (モデル解析班)

飼育実験によって海水および餌料から生物組織に取り込まれる元素同位体の特性を調べます。
「低解像度 全球規模海洋生物成長-回遊モデル」や「高解像度 北西太平洋海洋生物成長・回遊モデル」を用いて海洋生物の成長と回遊経路を計算します。
また、先進応用班・高度分析班・水産生態班が推定した海洋生物の回遊経路の精度を検証します。